記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

津軽通信

【日刊 太宰治全小説】#224「雀」

【冒頭】 この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経(た)って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原という町に、酒と煙草(たばこ)を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、…

【日刊 太宰治全小説】#213「やんぬる哉」

【冒頭】 こちら(津軽)へ来てから、昔の、小学校時代の友人が、ちょいちょい訪ねて来てくれる。私は小学校時代には、同級生たちの間でいささか威勢を逞(たくま)しゅうしていたところがあったようで、「何せ昔の親分だから」なんて、笑いながら言う町会議員…

【日刊 太宰治全小説】#211「嘘」

【冒頭】「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想もへったくれも要らない。男は嘘をつく事をやめて、女は慾(よく)を捨てたら、それでもう日本…

【日刊 太宰治全小説】#210「親という二字」

【冒頭】 親という二字と無筆の親は言い。この川柳は、あわれである。「どこへ行って、何をするにしても、親という二字だけは忘れないでくれよ。」「チャンや。親という字は一字だよ。」「うんまあ、仮りに一字が三字であってもさ。」この教訓は、駄目である…

【日刊 太宰治全小説】#209「庭」

【冒頭】 東京の家は爆弾でこわされ、甲府市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾(しょういだん)でまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽の私の生れた家に行かざるを得なくなった。 【結句】 兄は、けさは早く起…