【冒頭】
田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。
【結句】
声の悪いのは、傷だが、それは沈黙を固く守らせておればいい。
使える。
「グッド・バイ 行進 (一)」について
・新潮文庫『グッド・バイ』所収。
・昭和23年5月27日に脱稿。
・昭和23年7月1日、『朝日評論』七月号に掲載。
グッド・バイ (新潮文庫)
全文掲載(「青空文庫」より)
行進 (一)
田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。
すごい美人。醜くてすごい女なら、電車の停留場の一区間を歩く
もともと田島は器量自慢、おしゃれで虚栄心が強いので、不美人と一緒に歩くと、にわかに腹痛を覚えると称してこれを避け、かれの現在のいわゆる愛人たちも、それぞれかなりの美人ばかりではあったが、しかし、すごいほどの美人、というほどのものは無いようであった。
あの雨の日に、初老の不良文士の口から出まかせの「
まず、試みよ。ひょっとしたらどこかの人生の片すみに、そんなすごい美人がころがっているかも知れない。眼鏡の奥のかれの眼は、にわかにキョロキョロいやらしく動きはじめる。
ダンス・ホール。喫茶店。待合。いない、いない。醜くてすごいものばかり。オフィス、デパート、工場、映画館、はだかレヴュウ。いるはずが無い。女子大の校庭のあさましい
獲物は帰り道にあらわれる。
かれはもう、絶望しかけて、夕暮の新宿駅裏の闇市をすこぶる
「田島さん!」
出し抜けに背後から呼ばれて、飛び上らんばかりに、ぎょっとした。
「ええっと、どなただったかな?」
「あら、いやだ。」
声が悪い。
「へえ?」
と見直した。まさに、お見それ申したわけであった。
彼は、その女を知っていた。闇屋、いや、かつぎ屋である。彼はこの女と、ほんの二、三度、闇の物資の取引きをした事があるだけだが、しかし、この女の鴉声と、それから、おどろくべき怪力に
とんでもないシンデレラ姫。洋装の好みも高雅。からだが、ほっそりして、手足が
声の悪いのは、傷だが、それは沈黙を固く守らせておればいい。
使える。
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