記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を、自由に旅する。太宰治が、ソウルフレンド。

ソウルフレンド

【日刊 太宰治全小説】完結のお礼

いつも【日刊 太宰治全小説】をご覧頂き、誠にありがとうございます。 今日も、いつもの時間に、しれっと更新しましたが、おかげさまで、昨日の更新分を以って、無事に完結致しました。 今年2019年が、太宰治生誕110周年にあたるという事もあり、「太宰治は…

【日刊 太宰治全小説】#190「惜別」七

【冒頭】そう言われて私は、ふっと、数日前の小さい出来事を思い出した藤野先生の時間だ。 【結句】ひとの心理の説明は、その御当人にさえうまく出来ないものらしいし、まして私のような純才無学の者には、他人の気持など、わかりっこないのであるが、しかし…

【日刊 太宰治全小説】#189「惜別」六

【冒頭】私はその翌(あく)る日から、ほとんど毎日かかさず学校に出る事にした。周さんと逢っていろいろ話をしたいばかりに、そんな感心な心掛けになったのである。 【結句】「なあんだ。あなたは、この手紙の差出人を知っているらしいじゃないですか。」「…

【日刊 太宰治全小説】#188「惜別」五

【冒頭】「革命思想。」と先生は、ひとりごとのように低く言って、しばらく黙って居られた。 【結句】「月のいい夜には、時々それを思い出すのです。これがまあ、僕の唯一の風流な追憶でしょう。僕のような俗人でも、月光を浴びると、少しは Sentimental に…

【日刊 太宰治全小説】#187「惜別」四

【冒頭】あの松島の旅館で、当時二十四歳の留学生、周さんは、だいたい以上のような事情を私に打ち明けて聞かせてくれたのであるが、もちろんその夜、周さんがひとりでこんなに長々と清国の現状やら自身の生立ちやらを順序を追って講演したというわけではな…

【日刊 太宰治全小説】#186「惜別」三

【冒頭】その日、私は周さんと一緒に松島の海浜の旅館に泊った。いま考えると、当時の私の無警戒は、不思議なような気もするが、しかし、正しい人というものは、何か安心感を与えてくれるもののようである。 【結句】もう今では自分の進路は、一言で言える。…

【日刊 太宰治全小説】#185「惜別」二

【冒頭】私が東北の片隅のある小さい城下町の中学校を卒業して、それから、東北一の大都会といわれる仙台市に来て、仙台医学専門学校の生徒になったのは、明治三十七年の初秋で、そのとしの二月には露国に対し宣戦の詔勅(しょうちょく)が降り、私の仙台に…

【日刊 太宰治全小説】#184「惜別」一

【冒頭】これは日本の東北地方の某村に開業している一老医師の手記である。 【結句】どうせ、私には名文も美文も書けやしないのだから、くどくど未練がましい申しわけを言うのはもうやめて、ただ「辞ハ達スル而已矣(ノミ)」という事だけを心掛けて、左顧(…

【日刊 太宰治全小説】#183「竹青」

【冒頭】 むかし湖南の何とやら群邑(ぐんゆう)に、魚容(ぎょよう)という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、氏育ち共に賤(いや)しくなく、眉目清秀(びもくせいしゅう)、容姿また閑…

【日刊 太宰治全小説】#182「吉野山」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 拝啓。その後は、ごぶさたを申して居ります。までたく御男子御出生の由、大慶に存じます。いよいよ御家運御隆昌(ごりゅうしょう)の兆(きざし)と、おうらやましく思います。御一家いきいきと御家業にはげみ、御夕食後の御団欒(ごだんらん)はま…

【日刊 太宰治全小説】#181「遊興戒」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし上方の山粋人、吉郎兵衛、六右衛門、甚太夫とて、としは若し、家に金あり、親はあまし、男振りもまんざらでなし、しかも、話にならぬ阿呆というわけでもなし、三人さそい合って遊び歩き、そのうちに、上方の遊びもどうも手ぬるく思われて来て…

【日刊 太宰治全小説】#180「粋人」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 「ものには堪忍という事がある。この心掛けを忘れてはいけない。ちっとは、つらいだろうが我慢をするさ。夜の次には、朝が来るんだ。冬の次には春が来るさ。きまり切っているんだ。 【結句】 台所では、婆と蕾が、「馬鹿というのは、まだ少し脈のあ…

【日刊 太宰治全小説】#179「赤い太鼓」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし都の西陣に、織物職人の家多く、軒をならべておのおの織物の腕を競い家業にはげんでいる中に、徳兵衛とて、名こそ福徳の人に似ているが、どういうものか、お金が残らず肝を冷やしてその日暮し、晩酌も二合を越えず、女房と連添うて十九年、他…

【日刊 太宰治全小説】#178「女賊」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 後柏原天皇大永年間、陸奥(みちのく)一円にかくれなき瀬越の何がしという大賊、仙台名取川の上流、笹谷峠の附近に住み、往来の旅人をあやめて金銀荷物押領し、その上、山賊にはめずらしく吝嗇の男で、むだ使いは一切つつしみ、三十歳を少し出たば…

【日刊 太宰治全小説】#177「義理」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 義理のために死を致す事、これ弓馬の家のならい、むかし摂州伊丹に神崎式部という筋目正しき武士がいた。 【結句】 式部うつむき涙を流し、まことに武士の義理ほどかなしき物はなし、ふるさとを出(い)でし時、人も多きに我を択(えら)びて頼むと…

【日刊 太宰治全小説】#176「裸川」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 鎌倉山の秋の夕ぐれをいそぎ、青砥左衛門尉藤綱、駒をあゆませて滑川(なめりがわ)を渡り、川の真中に於いて、いささか用の事ありて腰の火打袋を取出し、袋の口をあけた途端に袋の中の銭十文ばかり、ちゃぼりと川浪にこぼれ落ちた。 【結句】 「下…

【日刊 太宰治全小説】#175「破産」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし美作(みまさか)の国に、蔵合(ぞうごう)という名の大長者があって、広い屋敷には立派な蔵が九つも立ち並び、蔵の中の金銀、夜な夜な呻き出して四隣の国々にも隠れなく、美作の国の人たちは自分の金でも無いのに、蔵合のその大財産を自慢し…

【日刊 太宰治全小説】#174「人魚の海」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 後深草天皇宝治元年三月二十日、津軽の大浦というところに人魚はじめて流れ寄り、其の形は、かしらに細き海藻の如き緑の髪ゆたかに、面は美女の愁(うれ)えを含み、くれないの小さき鶏冠(とさか)その眉間にあり、上半身は水晶の如く透明にして幽…

【日刊 太宰治全小説】#173「猿塚」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし筑前の国、大宰府の町に、白坂徳右衛門とて代々酒屋を営み大宰府一の長者、その息女お蘭の美形ならびなく、七つ八つの頃から見る人すべて瞠若(どうじゃく)し、おのれの鼻垂れの娘の顔を思い出してやけ酒を飲み、町内は明るく浮き浮きして、…

【日刊 太宰治全小説】#172「大力」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし讃岐の国、高松に丸亀屋とて両替屋を営み四国に名高い歴々の大長者、その一子に才兵衛とて生れ落ちた時から骨太く眼玉はぎょろりとしてただならぬ風貌の男児があったが、三歳にして手足の筋骨いやに節くれだち、無心に物差しを振り上げ飼猫の…

【日刊 太宰治全小説】#171「貧の意地」(『新釈諸国噺』)

【冒頭】 むかし江戸品川、藤茶屋のあたり、見るかげも無き草の庵(いおり)に、原田内助というおそろしく髭(ひげ)の濃い、眼の血走った中年の大男が住んでいた。 【結句】 落ちぶれても、武士はさすがに違うものだと、女房は可憐に緊張して勝手元へ行き、…

【太宰治】対談:著書と資料をめぐって

太宰治が今年で生誕110周年を迎えるのに合わせ、青森県五所川原市、同弘前市、東京都三鷹市、山梨県甲府市など、太宰にゆかりのある地で、様々な催しが行われています。特に6月は、太宰の誕生月であり、玉川上水に投身した太宰の遺体が発見された日でも…

【桜桃忌2019】太宰治 生誕110周年によせて

6月19日。今日は、桜桃忌です。 1948年の6月13日、太宰治は愛人の山崎富栄さんとともに東京三鷹市の玉川上水に入水自殺しました。没年38歳。しかし、入水後に雨が降ったため、なかなか遺体が上がらず、見つかったのが6日後の6月19日。この日…

【日刊 太宰治全小説】#170「津軽」五 西海岸

【冒頭】 前にも幾度となく述べて来たが、私は津軽に生れ、津軽に育ちながら、今日まで、ほとんど津軽の土地を知っていなかった。 【結句】 さて、古聖人の獲麟(かくりん)を気取るわけでもないけれど、聖戦下の新津軽風土記も、作者のこの獲友の告白を以て…

【日刊 太宰治全小説】#169「津軽」四 津軽平野

【冒頭】 「津軽」本州の東北端日本海方面の古称。 【結句】 兄は黙って歩き出した。兄は、いつでも孤独である。 「津軽」について ・新潮文庫『津軽』所収。 ・昭和19年7月末までに脱稿。 ・昭和19年11月15日、「新風土記叢書7」として小山書店か…

【日刊 太宰治全小説】#168「津軽」三 外ヶ浜

【冒頭】 Sさんの家を辞去してN君の家へ引上げ、N君と私は、さらにまたビールを飲み、その夜はT君も引きとめられてN君の家に泊る事になった。三人一緒に奥の部屋に寝たのであるが、T君は翌朝早々、私たちのまだ眠っているうちにバスで青森へ帰った。 …

【日刊 太宰治全小説】#167「津軽」二 蟹田

【冒頭】 津軽半島の東海岸は、昔から外ヶ浜と呼ばれて船舶の往来の繁盛だったところである。青森市からバスに乗って、この東海岸を北上すると、後潟(うしろがた)、蓬田(よもぎた)、蟹田(かにた)、平舘(たいらだて)、一本木、今別、等の町村を通過し…

【日刊 太宰治全小説】#166「津軽」一 巡礼

【冒頭】 「ね、なぜ旅に出るの?」 「苦しいからさ」 【結句】 「私は、あした蟹田へ行きます。あしたの朝、一番のバスで行きます。Nさんの家で逢いましょう」 「病院の方は?」 「あしたは日曜日です」 「なあんだ、そうか。早く言えばいいのに」 私たち…

【日刊 太宰治全小説】#165「津軽」序編

【冒頭】或るとしの春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかって一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであった。私は津軽に生れ、そうして二十年間、津軽に於いて育ちながら、金木、五…

【日刊 太宰治全小説】#164「東京だより」

【冒頭】 東京は、いま、働く少女で一ぱいです。朝夕、工場の行き帰り、少女たちは二列縦隊に並んで産業戦士の歌を合唱しながら東京の街を行進します。ほとんどもう、男の子と同じ服装をしています。でも、下駄の鼻緒が赤くて、その一点にだけ、女の子の匂い…