記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

ヴィヨンの妻

【日刊 太宰治全小説】#234「ヴィヨンの妻」三

【冒頭】ほんの三十分、いいえ、もっと早いくらい、おや、と思ったくらいに早く、ご亭主がひとりで帰って来まして、私の傍(そば)に寄り、「奥さん、ありがとうございました。お金はかえして戴(いただ)きました」「そう。よかったわね。全部?」ご亭主は、へ…

【日刊 太宰治全小説】#233「ヴィヨンの妻」二

【冒頭】とにかく、しかし、そんな大笑いをして、すまされる事件ではございませんでしたので、私も考え、その夜お二人に向って、それでは私が何とかしてこの後始末をする事に致しますから、警察沙汰(けいさつざた)にするのは、もう一日お待ちになって下さい…

【日刊 太宰治全小説】#232「ヴィヨンの妻」一

【冒頭】あのわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔(でいすい)の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。 【結句】またもや、わけのわからぬ可笑(おか)しさがこみ上げ…