記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

女性独白体

【週刊 太宰治のエッセイ】女人創造

◆「女人創造」 毎週月曜朝6時更新。太宰治の全エッセイ全163作品を執筆順に紹介します。

【日刊 太宰治全小説】#249「饗応夫人」

【冒頭】奥さまは、もとからお客に何かと世話を焼き、ごちそうするのが好きなほうでしたが、いいえ、でも、奥さまの場合、お客をすきというよりは、お客におびえている、とでも言いたいくらいで、玄関のベルが鳴り、まず私が取次ぎに出まして、それからお客…

【日刊 太宰治全小説】#247「おさん」

【冒頭】たましいの、抜けたひとのように、足音も無く玄関から出て行きます。 【結句】気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈(はず)です。自分の妻に対する気持一つ変える事が出来ず、革命の十字架…

【日刊 太宰治全小説】#246「斜陽」八

【冒頭】ゆめ。皆が、私から離れて行く。直治の死のあと始末をして、それから一箇月間、私は冬の山荘にひとりで住んでいた。そうして私は、あのひとに、おそらくはこれが最後の手紙を、水のような気持で、書いて差し上げた。 【結句】ご不快でしょうか。ご不…

【日刊 太宰治全小説】#245「斜陽」七

【冒頭】直治の遺書。姉さん。だめだ。さきに行くよ。 【結句】さようなら。ゆうべのお酒の酔いは、すっかり醒(さ)めています。僕は、素面(しらふ)で死ぬんです。もういちど、さようなら。姉さん。僕は、貴族です。 「斜陽(しゃよう) 七」について ・新潮文…

【日刊 太宰治全小説】#244「斜陽」六

【冒頭】戦闘、開始。 【結句】弟の直治は、その朝に自殺していた。 「斜陽(しゃよう) 六」について ・新潮文庫『斜陽』所収。・昭和22年5月頃に脱稿。・昭和22年9月1日、『新潮』九月号に「斜陽(長篇連載第三回)」として「五」「六」を掲載。斜陽 …

【日刊 太宰治全小説】#243「斜陽」五

【冒頭】私は、ことしの夏、或(あ)る男のひとに、三つの手紙を差し上げたが、ご返事は無かった。 【結句】お死顔は、殆(ほと)んど、変らなかった。お父上の時は、さっと、お顔の色が変ったけれども、お母さまのお顔の色は、ちっとも変らずに、呼吸だけが絶え…

【日刊 太宰治全小説】#242「斜陽」四

【冒頭】お手紙、書こうか、どうしようか、ずいぶん迷っていました。けれども、けさ、鳩(はと)のごとく素直(すなお)に、蛇(へび)のごとく慧(さと)かれ、というイエスの言葉をふと思い出し、奇妙に元気が出て、お手紙を差し上げる事にしました。直治(なおじ)…

【日刊 太宰治全小説】#241「斜陽」三

【冒頭】どうしても、もう、とても、生きておられないような心細さ。これが、あの、不安、とかいう感情なのであろうか。 【結句】不良でない人間があるだろうか、とあのノートブックに書かれていたけれども、そう言われてみると、私だって不良、叔父さまも不…

【日刊 太宰治全小説】#240「斜陽」二

【冒頭】蛇(へび)の卵の事があってから、十日ほど経(た)ち、不吉な事がつづいて起り、いよいよお母さまの悲しみを深くさせ、そのお命を薄くさせた。 【結句】思うと、その日あたりが、私たちの幸福の最後の残り火の光が輝いた頃で、それから、直治(なおじ)が…

【日刊 太宰治全小説】#239「斜陽」一

【冒頭】朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽(かす)かな叫び声をお挙げになった。 【結句】恋、と書いたら、あと、書けなくなった。 「斜陽(しゃよう) 一」について ・新潮文庫『斜陽』所収。・昭和22年3月6日に脱稿。・昭和…

【日刊 太宰治全小説】#234「ヴィヨンの妻」三

【冒頭】ほんの三十分、いいえ、もっと早いくらい、おや、と思ったくらいに早く、ご亭主がひとりで帰って来まして、私の傍(そば)に寄り、「奥さん、ありがとうございました。お金はかえして戴(いただ)きました」「そう。よかったわね。全部?」ご亭主は、へ…

【日刊 太宰治全小説】#233「ヴィヨンの妻」二

【冒頭】とにかく、しかし、そんな大笑いをして、すまされる事件ではございませんでしたので、私も考え、その夜お二人に向って、それでは私が何とかしてこの後始末をする事に致しますから、警察沙汰(けいさつざた)にするのは、もう一日お待ちになって下さい…

【日刊 太宰治全小説】#232「ヴィヨンの妻」一

【冒頭】あのわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔(でいすい)の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。 【結句】またもや、わけのわからぬ可笑(おか)しさがこみ上げ…

【日刊 太宰治全小説】#212「貨幣」

【冒頭】私は七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。或(ある)いは私はその中に、はいっているかも知れません。 【結句】仲間はみんな一様に黙って首肯(うなず)きました。 「貨幣(かへい)」について ・新潮…

【日刊 太宰治全小説】#163「雪の夜の話」

【冒頭】あの日、朝から、雪が降っていたわね。 【結句】兄さんは、ぶっとふくれて隣りの六畳間に引込みました。 「雪(ゆき)の夜(よ)の話(はなし)」について ・新潮文庫『ろまん燈籠』所収。・昭和19年3月末頃までに脱稿。・昭和19年5月1日、『少女の…

【日刊 太宰治全小説】#128「待つ」

【冒頭】省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 【結句】その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教しえせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。 「待(ま)つ」について ・新潮文庫『新ハムレット…

【日刊 太宰治全小説】#125「十二月八日」

【冒頭】きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。昭和十六年の十二月八日には日本のまずしい家庭の主婦は、どんな一日を送ったか、ちょっと書いて置きましょう。 【結句】どこまで正気なのか、本当に、呆(あき)れた主人であります。 「十二…

【日刊 太宰治全小説】#123「恥」

【冒頭】菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。 【結句】小説家なんて、つまらない。人の屑だわ。嘘ばっかり書いている。ちっと…

【日刊 太宰治全小説】#108「千代女」

【冒頭】女は、やっぱり、駄目なものなのね。女のうちでも、私という女ひとりが、だめなのかも知れませんけれども、つくづく私は、自分を駄目だと思います。 【結句】きのう私は、岩見先生に、こっそり手紙を出しました。七年前の天才少女をお見捨てなく、と…

【日刊 太宰治全小説】#88「きりぎりす」

【冒頭】おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。私にも、いけない所が、あるのかも知れません。けれども、私は、私のどこが、いけないのか、わからないの。私も、もう二十四です。 【結句】この世では、きっと、あなたが正しくて、私こそ間違…

【日刊 太宰治全小説】#75「誰も知らぬ」

【冒頭】誰も知ってはいないのですが、――と四十一歳の安井夫人は少し笑って物語る。――可笑(おか)しなことがございました。私が二十三歳の春のことでありますから、もう、かれこれ二十年も昔の話でございます。 【結句】あなたには、おわかりでしょうか。まる…

【日刊 太宰治全小説】#67「皮膚と心」

【冒頭】ぷつッと、ひとつ小豆(あずき)粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりにも、ぱらぱら小さい赤い吹出物が霧を噴きかけたように一面に散点していて、けれども、そのときは、痒(かゆ)くも、なんともありませんでし…

【日刊 太宰治全小説】#59「葉桜と魔笛」

【冒頭】桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。ーーとその老夫人は物語る。 【結句】私は、そう信じて安心しておりたいのでございますけれども、どうも、年とって来ると、物慾(ぶつよく)が起り、信仰も薄らいでまいって、…

【日刊 太宰治全小説】#44「女生徒」

【冒頭】あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い。かくれんぼのとき、押入れの真暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖(ふすま)をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶし…

【日刊 太宰治全小説】#37「燈籠」

【冒頭】言えば言うほど、人は私を信じて呉れません。逢うひと、逢うひと、みんな私を警戒いたします。ただ、なつかしく、顔を見たくて訪ねていっても、なにしに来たというような目つきでもって迎えて呉れます。たまらない思いでございます。 【結句】私たち…