2月22日の太宰治。
1936年(昭和11年)2月22日。
太宰治 26歳。
丹羽文雄、尾崎一雄、小田嶽夫、川端康成、川崎長太郎、淀野隆三、瀧井孝作、武田麟太郎、田畑修一郎、檀一雄、中谷孝雄、保田與重郎、井伏鱒二らとともに、浅草「双葉」での外村繁『鵜の物語』(砂子屋書房、昭和十一年二月十五日発行)の出版記念会に出席した。会後、井伏鱒二、伊馬鵜平、河上徹太郎と「小竹」に行き、午前二時「小竹」を出て、伊馬鵜平に送られて帰宅した。
外村繁 と追悼文「太宰君のこと」
外村は、第三高等学校文科甲類を卒業したあと、東京帝国大学経済学部に入学します(文学部志望でしたが、親の意向で経済学部に進学)。大学在学中の1925年(大正14年)1月、第三高等学校時代から「三高劇研究会」で親交のあった梶井基次郎や中谷孝雄らと、同人誌「青空」を創刊。同年11月に川端康成の同人誌「文藝時代」から文芸時評を依頼されて寄稿しますが、この際、名前を誤植され「外村繁」(本名は「外村茂)と印刷されてしまったため、以後、「外村繁」をペンネームにしました。
大学卒業後、父親が急逝したため、家業を継ぎに実家に戻りますが、のちに弟へ家業を譲り、1933年(昭和8年)に阿佐ヶ谷へ移って小説家として再出発。『鵜の物語』を発表。また、中谷孝雄の紹介で「麒麟」の同人になります。
■1935年(昭和10年)、第一回芥川賞の候補になった頃の外村(32歳)。
1935年(昭和10年)、外村は、当時連載中だった『
外村は、太宰のことを、比較的早い時期から評価していた1人で、太宰が玉川上水に入水した後、1948年(昭和23年)6月18日付の「世界日報」に『太宰君のこと』という追悼文を発表しています。今回は最後に、この追悼文『太宰君のこと』を引用して紹介します。
太宰君のこと
私が太宰君と知り合ったのは、もう十三、四年前のことで、昭和九年か十年頃「鷭 」という雑誌に彼の「猿面冠者」が載った。それを読んで大層感心したので、私達の同人雑誌「世紀」に批評を書いてほめたことがあるが、その頃から交際が始まったのである。一番頻繁に往来したのは「日本浪漫派」の時代だったが、彼はあまりにも毎日毎日やってくるので、酒をのみながら、少し迷惑だという意味のことをいったことがある。それからというものは私の家へ来ても絶対に門から中へは入らなかった。結局、いつであったか、釈然とそんな大人の心がわかったと仲直りをしたのだが、そんな一徹さをもっていたことも忘れられない。
最近では二人とも忙しくてなかなか会えなかった。去年の夏、子供をつれて三鷹へローレル、ハーディの映画を観に行った帰途、うなぎ屋の若松屋の前でぱったり顔を合せ、お互に待人来るというわけで一杯となった時、彼は子供たちにうなぎをさんざ御馳走してくれて「坊ちゃんも嬢ちゃんもいい子だから……」と先に帰してしまって、二人で一晩のみあかした。最後にあったのは今年の四月廿八日青柳瑞穂君の亡くなられた奥さんのお葬式の席だった。彼と蔵原伸二郎の並んでいるところへ行って、丁度上京していた藤原審爾君を紹介した。いろんな話のすえに蔵原が「僕らの年になると限界を知っちゃってだめだ」と云ったところ、太宰君は蔵原君が二十八才だということを知り「若いんだなあ」とひとりでしみじみ呟いていた。その時私は太宰君が恐ろしく疲れて肉体的にもずいぶん弱っているということを痛感した。
太宰君については、ポーズだという議論も大分あるようで、志賀さんなどもその説であるが太宰君に関する限りは私は志賀さんにも同意出来ない。弱い性格のものには弱い生き方があり、宿命があるのだ。酒をのんで人に迷惑をかけたりこんな死に方をする彼に対して厳しい批判もあろうが、それしもポーズだという説には、人間人類に対する愛情が欠けていると思う。弱いといわれてもどうにもならない宿命的なものをもって生れて来た人間のあることまで否定は出来ない。太宰君はそういう弱さをもっていた。彼の生き方は決してポーズではない。あれでなくては生きられなかったのだと私は思う。太宰君は弱ければ弱い程純粋だったのだ。四十になっても人騒がせをしなければならなかった彼の純粋さを認めたい。奥さんにあてた遺書のなかで"井伏さんは悪人です"とあるのが大分問題になっているが、あまりにも多方面にわたる井伏さんの愛情が彼にとってかえって重荷となり、軽く動けなくなったことがあるのではないか。あれは井伏さんにたいする彼の最後の甘え方だと考えて間違いはないと思う。
【了】
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【参考文献】
・日本近代文学館 編『図説 太宰治』(ちくま学芸文庫、2000年)
・志村有弘・渡部芳紀 編『太宰治大事典』(勉誠出版、2005年)
・山内祥史『太宰治の年譜』(大修館書店、2012年)
・河出書房新社編集部 編『太宰よ! 45人の追悼文集 さよならの言葉にかえて』(河出文庫、2018年)
・田村茂 写真『素顔の文士たち』(河出書房新社、2019年)
※モノクロ画像は、上記参考文献より引用しました。
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