記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

【日刊 太宰治全小説】#62「美少女」

【冒頭】ことしの正月から山梨県、甲府市のまちはずれに小さい家を借り、少しずつ貧しい仕事をすすめてもう、はや半年すぎてしまった。 【結句】おそらくは、あの少女のこれが父親であろう主人に、ざくざく髪を刈らせて、私は涼しく、大へん愉快であったとい…

【日刊 太宰治全小説】#61「座興に非ず」

【冒頭】 おのれの行く末を思い、ぞっとして、いても立っても居られぬ思いの宵は、その本郷のアパアトから、ステッキずるずるひきずりながら上野公園まで歩いてみる。九月もなかば過ぎた頃のことである。 【結句】 「ありがとう。君を忘れやしないよ。」 私…

【日刊 太宰治全小説】#60「八十八夜」

【冒頭】笠井一さんは、作家である。ひどく貧乏である。このごろ、ずいぶん努力して通俗小説を書いている。けれども、ちっとも、ゆたかにならない。くるしい。もがきあがいて、そのうちに、呆(ぼ)けてしまった。 【結句】お金は、半分以上も、残っていた。要…