記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

陰火

【日刊 太宰治全小説】#24「陰火」尼(『晩年』)

【冒頭】九月二十九日の夜更(よふ)けのことであった。あと一日がまんをして十月になってから質屋へ行けば、利子がひと月分もうかると思ったので、僕は煙草(たばこ)ものまずにその日いちにち寝てばかりいた。昼のうちにたくさん眠った罰で、夜は眠れないのだ…

【日刊 太宰治全小説】#23「陰火」水車(『晩年』)

【冒頭】橋へさしかかった。男はここで引きかえそうと思った。女はしずかに橋を渡った。男も渡った。 【結句】水車は闇のなかでゆっくりゆっくりまわっていた。女は、くるっと男に背をむけて、また歩きだした。男は煙草(たばこ)をくゆらしながら踏みとどまっ…

【日刊 太宰治全小説】#22「陰火」紙の鶴(『晩年』)

【冒頭】「おれは君とちがって、どうやらおめでたいようである。おれは処女でない妻をめとって、三年間、その事実を知らずにすごした。こんなことは口に出すべきでないかも知れぬ。 【結句】まずこの紙を対角線に沿うて二つに折って、それをまた二つに畳(た…

【日刊 太宰治全小説】#21「陰火」誕生(『晩年』)

【冒頭】二十五の春、そのひしがたの由緒(ゆいしょ)ありげな学帽を、たくさんの希望者の中でとくにへどもどまごつきながら願い出たひとりの新入生へ、くれてやって、帰郷した。 【結句】生れて百二十日目に大がかりな誕生祝いをした。 「陰火(いんか) 誕生(…