記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

晩年

【日刊 太宰治全小説】#4「思い出」三章(『晩年』)

【冒頭】四年生になってから、私の部屋へは毎日のようにふたりの生徒が遊びに来た。私は葡萄酒(ぶどうしゅ)と鯣(するめ)をふるまった。そうして彼等に多くの出鱈目(でたらめ)を教えたのである。 【結句】私たちは、お互いの頭をよせつつ、なお鳥渡(ちょっと)…

【日刊 太宰治全小説】#3「思い出」二章(『晩年』)

【冒頭】いい成績ではなかったが、私はその春、中学校へ受験して合格をした。私は、新しい袴(はかま)と黒い沓下(くつした)とあみあげの靴をはき、いままでの毛布をよして羅紗(ラシャ)のマントを洒落者らしくボタンをかけずに前をあけたまま羽織って、その海…

【日刊 太宰治全小説】#2「思い出」一章(『晩年』)

【冒頭】黄昏(たそがれ)のころ私は叔母と並んで門口に立っていた。叔母は誰かをおんぶしているらしく、ねんねこを着て居た。その時の、ほのぐらい街路の静けさを私は忘れずにいる。 【結句】私はその混雑にまぎれて、受験勉強を全く怠ったのである。高等小学…

【日刊 太宰治全小説】#1「葉」(『晩年』)

【冒頭】死のうと思っていた。 【結句】どうにか、なる。 「葉(は)」について ・新潮文庫『晩年』所収。・昭和8年11月頃に初稿脱稿、昭和8年12月頃に発表稿脱稿。・昭和9年4月11日、季刊同人誌『鷭(ばん)』第一輯(しゅう)に掲載。 晩年 (新潮文庫)…