春の美術館巡り
春の陽気。
桜満開、快晴の土曜日。
一時間ほど、電車に揺られて外出。
一人ぶらりと訪れた、横浜・みなとみらい。
春の温かい陽射しと、海からの爽やかな風が気持ちいい。
実は先週、仕事の関係でもらったチケットを持って、上野・国立西洋美術館で開催中の『プラド美術館展ーベラスケスと絵画の栄光』へ行って来た。
アートはあまり詳しくないが、気になる作品を、ぼんやりと眺めているのが好きだ。
就活生時代、会社の説明会・面接が終わると、気になる企画展が開催されている都内の美術館めぐりをしていた。
そんな感じで、大学時代の自分に想いを馳せながら、2時間強かけて、ゆっくりと世界に浸ってきた。
ポスターデザインにもなっている、フェリペ4世の息子カルロスくんを描いた「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」の可愛さに感激しつつ、17世紀のスペイン王室で収集された70点もの作品群を堪能してきた(下写真が、カルロスくん。カルロスくんが5歳くらいの時に描かれた。次代の王として期待されるも、16歳で亡くなったため、王位に就くことはなかった。)。
で、その帰り道、他美術館の企画展のパンフレットが並べられている中で、見つけてしまったのが、今回訪れた『ヌード展ー英国テート・コレクションより』。
なんと、そそられるテーマ(笑)
『プラド美術館展』の展示にも一部あった裸体画。
カルロスくんの父親・フィリペ4世は、王宮の中に、裸体画だけを集めた「ティツィアーノの間(丸天井の間)」と呼ばれた空間を持っていたそう。
時代によって批判や論争の対象とされながらも、美の象徴・愛の表現として、西洋の芸術家たちが絶えず向き合ってきた、いわば永遠のテーマ「ヌード」。
「そのヌードには、秘密がある。」
このキャッチコピーも、「見てはいけないものを覗いてみたいっ!」という、鶴の恩返し的な気持ちをくすぐられる。
「近現代美術の殿堂 英国テートのコレクションで、ヌードの軌跡200年をたどる。」
「ロダン彫刻でもっともエロティック。大理石彫刻《接吻》日本初公開!」
こんな宣伝をされてしまったら、居ても立っても居られなくなってしまう。
そして、運よく手に入ってしまうチケット(笑)
こうして、2週続けての美術館めぐりが決定したのだった。
横浜美術館に到着
横浜美術館は、みなとみらい線・みなとみらい駅の3番出口を出て、マークイズみなとみらいの中を通り、徒歩5分程度。
美術館の前は公園になっており、青空の下、家族連れやカップルで賑わっていた。
高層ビルが林立する中に、こういう光景がいきなりバ~ン!って出てくるとこ、都会恐るべし、と思う。
先週3月24日からはじまり、6月24日までの3ヶ月間開催。
結論から言うと、久し振りに、かなり心を揺さぶられた。
今以上に、部屋に物が増えるのは困るので、パンフレットや図録の類は購入しないと心に決めているのだが、美術館を出た時には、右手にしっかり図録の入ったビニール袋を握り締めていた…(笑)
展示作品は、19世紀後半のヴィクトリア朝の神話画・歴史画から現代の身体表現にまでおよび、西洋美術における裸体表現の歴史200年を辿ることができる。
デフォルメ・デザイン化された抽象的なものから、ここまで赤裸々に描いてしまっていいのかと思うほど直截的なものまで、多彩なテート・コレクション134点(一部、横浜美術館、富山県美術館、東京国立近代美術館所蔵のものを含む)を堪能することができた。
展示作品について
1番最初に迎えてくれるのが、フレデリック・レイトンの『プシュケの水浴』。
縦189.2cmもあるカンヴァスに描かれた作品。
古代神話に材をとって描かれた作品だが、もう美しいの一言。
プシュケは、キューピッドに一目惚れされる人間の娘だけど、こりゃ、男なら誰でも惚れてまうやろ。
ため息の出る美しさ、とは、まさにこのこと。
この『プシュケ』を皮切りに、「物語とヌード」「親密な眼差し」「モダン・ヌード」「エロティック・ヌード」「レアリスムとシュルレアリスム」「肉体を捉える筆触」「身体の政治性」「儚き身体」という8つのテーマに分かれて、展示が進んでいく。
「親密な眼差し」では、観られることを想定し、ポーズをとったヌードではなく、自然な光景の中でのヌードも描かれる。
エドガー・ドガの『浴槽の女性』は好きな1枚だが、そこにはエロティシズムというより、湯あみの女性を見つめる画家の、温かい眼差しが感じられる。
神話や聖書に材を取り、理想化された女性ではなく、近代的かつ日常的な女性が描かれていることも、ヌードに対する意識の変化を示しているのだろう。
『エロティック・ヌード』コーナー、有名なパブロ・ピカソの『156シリーズ』『347シリーズ』には、度肝を抜かれた。
エロティシズムと覗き趣味を主題とした連作だが、これはエロティックというか、なんというか。
ピカソならではのデフォルメがなされているものの、展示作品の中で、視覚的にもっとも直截的な表現がされている作品だったと思う。
正直、目のやり場に困る(笑)
「レアリスムとシュルレアリスム」や「身体の政治性」も非常に興味深い内容だった。
特に私は、Funkを好きで聴く関係で、音楽も含めた芸術作品と政治との関係について、もう少し深く掘り下げて学んでいきたいな、と思った。
オーギュスト・ロダン《接吻》
そして、最後に、今回の大目玉。
「ロダン彫刻でもっともエロティック。大理石彫刻《接吻》日本初公開!」と謳われた大理石像。
『エロティック・ヌード』コーナーに展示されており、この作品のみ撮影可能となっている。
黒い壁に覆われた展示スペースに足を踏み入れた瞬間、空気が変わったような気がした。
圧巻。
そこに、言葉は、いらない。
全高182.2cmの大理石像が、圧倒的な存在感をもって、観る者に迫って来る。
漆黒の闇に浮かぶ、美しき男女の裸体が、そこにあるだけなのだ。
男性の隆々とした筋肉。
女性の柔らかい肌。
温度・湿度・粘度が、伝わって来る。
2人のものすごい熱量を、ひしひしと感じる。
この作品は1901年~1904年に作成。
1913年、イギリスではじめて公開された際、あまりにもエロティックすぎるという理由から、布で覆い隠された形で公開された過去もある。
男性の手からは、女性への優しい愛が。
女性の手からは、男性への激しい愛が伝わってくる。
他人の情事を覗き見しているような、若干の罪悪感もありながら、眼が釘付けになってしまう。
大理石でここまで表現できるものかと、物質の未知なる魅力に取り憑かれてしまい、舐めるように何度も何度も、作品の周りを徘徊してしまった。
これは、いい。
ほんと、いい。
すごく、いい。
いい。
いい。
いい。
未見の方は、会期中に、是非。