記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

正義と微笑

【週刊 太宰治のエッセイ】一日の労苦

◆「一日の労苦」 毎週月曜朝6時更新。太宰治の全エッセイ全163作品を執筆順に紹介します。

【日刊 太宰治全小説】#139「正義と微笑」十一

【冒頭】 八月二十四日。木曜日。 曇り。地獄の夏。気が狂うかも知れぬ。いやだ、いやだ。何度、自殺を考えたか分からぬ。三味線が、ひけるようになりましたよ。踊りも出来ます。毎日、毎日、午前十時から午後四時まで。演技道場は、地獄の谷だ!学校は止め…

【日刊 太宰治全小説】#138「正義と微笑」十

【冒頭】 七月五日。水曜日。 晴れ。夕、小雨。きょう一日の事を、ていねいに書いてみよう。僕はとても落ちついている。すがすがしいくらいだ。心に、なんの不安も無い。全力をつくしたのだ。あとは、天の父におまかせをする。爽やかな微笑が湧く。本当に、…

【日刊 太宰治全小説】#137「正義と微笑」九

【冒頭】 五月十一日。木曜日。 曇。風強し。きょうは、やや充実した日だった。きのうの僕は幽霊だったが、きょうは、いくぶん積極的な生活人だった。学校の聖書の講義が面白かった。 【結句】 ダンテは、地獄の罪人たちの苦しみを、ただ、見て、とおったそ…

【日刊 太宰治全小説】#136「正義と微笑」八

【冒頭】 五月九日。火曜日。 晴れ。きょうも学校を休む。大事な日なんだから仕方が無い。ゆうべは夢ばかり見ていた。着物の上に襦袢を着た夢を見た。あべこべである。へんな形であった。不吉な夢であった。さいさきが悪いと思った。 【結句】 いずれを見て…

【日刊 太宰治全小説】#135「正義と微笑」七

【冒頭】 五月三日。水曜日。 晴れ。学校を休んで、芝の斎藤氏邸に、トボトボと出かける。トボトボという形容は、決して誇張ではなかった。実に、暗鬱な気持であった。 【結句】 こんな事でどうする。あすは、いや、もう十二時を過ぎているから、きょうだ、…

【日刊 太宰治全小説】#134「正義と微笑」六

【冒頭】 四月二十九日。土曜日。 日本晴れ。今日は天長節である。兄さんも僕も、きょうは早く起きた。静かな、いいお天気である。兄さんの説に依ると、昔から、天長節は必ずこんなに天気がいい事にきまっているのだそうである。僕はそれを、単純に信じたい…

【日刊 太宰治全小説】#133「正義と微笑」五

【冒頭】 四月二十六日。水曜日。 晴れ。夕刻より小雨。学校へ行ったら、きのうもやはり、靖国神社の大祭で休みだったという事を聞いて、なあんだと思った。つまり、きのうと、おとといと二日つづいて休みだったのだ。そうと知ったら、もっと安心して、らく…

【日刊 太宰治全小説】#132「正義と微笑」四

【冒頭】 四月五日。水曜日。 大風。けさの豪壮な大風は、都会の人には想像も出来まい。ひどいのだ。ハリケーンと言いたいくらいの凄い西風が、地響き立てて吹きまくる。 【結句】 このごろの兄さんは、とてもこわい。 夜は寝ながら、テアトロを読みちらした…

【日刊 太宰治全小説】#131「正義と微笑」三

【冒頭】 一月五日。木曜日。 曇天。風強し。きょうは、何もしなかった。 【結句】 僕は、ひと眠りしてから、また起きて、この日記をしたためた。この三日間の出来事を、一つも、いつわらずに書いたつもりだ。一生涯、この三日間を忘れるな! 「正義と微笑」…

【日刊 太宰治全小説】#130「正義と微笑」二

【冒頭】 四月二十日。火曜日。 晴れ、といっても、日本晴れではない。だいたい晴れ、というようなところだ。 【結句】 さて、明日からは高邁(こうまい)な精神と新鮮な希望を持って前進だ。十七歳になったのだ。僕は神さまに誓います。明日は、六時に起き…

【日刊 太宰治全小説】#129「正義と微笑」一

【冒頭】四月十六日。金曜日。すごい風だ。東京の春は、からっ風が強くて不愉快だ。埃が部屋の中にまで襲来し、机の上はざらざら、頬ぺたも埃だらけ、いやな気持だ。これを書き終えたら、風呂へはいろう。背中にまで埃が忍び込んでいるような気持で、やり切…