記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

火の鳥

【日めくり太宰治】9月13日

9月13日の太宰治。 1938年(昭和13年)9月13日。 太宰治 29歳。 井伏鱒二の勧めにより鎌滝方を引き払い、質屋から「夏の和服一揃を出して着かざり」、「淡茶色の鞄」一つ提げて、「思いをあらたにする覚悟」で、井伏鱒二の滞在していた山梨県…

【日刊 太宰治全小説】#58「火の鳥」⑨(『愛と美について』)

【冒頭】 その夜、ああ、知っているものが見たら、ぎょっとするだろう。須々木乙彦は、生きている。生きて、ウイスキイを呑んでいる。 【結句】 ばかだ、ばかだ。ひとのめかけになるなんて。ばかだ。死ね!僕が殺してやる。」 「未完」 「火の鳥」について …

【日刊 太宰治全小説】#57「火の鳥」⑧(『愛と美について』)

【冒頭】 高野さちよは、そのひとつきほどまえ、三木と同棲をはじめていた。数枝いいひと、死んでも忘れない、働かなければ、あたし、死ぬる、なんにも言えない、鷗(かもめ)は、あれは、唖(おし)の鳥です、とやや錯乱に似た言葉を書き残して、八重田和枝…

【日刊 太宰治全小説】#56「火の鳥」⑦(『愛と美について』)

【冒頭】 成功であった。劇団は、「鷗座(かもめざ)」。劇場は、築地小劇場。狂言は、チェホフの三人姉妹。女優、高野幸代は、長女オリガを、見事に演じた。 【結句】 助七に、ぐんと脊中を押され、青年は、よろめき、何かあたたかい人間の真情をその脊中に…

【日刊 太宰治全小説】#55「火の鳥」⑥(『愛と美について』)

【冒頭】 高野さちよを野薔薇としたら、八重田数枝は、あざみである。 【結句】 とにかく、この子が女優になるというし、これは、ひとつ、後援会でも組織せずばなるまい。 「火の鳥」について ・新潮文庫『新樹の言葉』所収。 ・昭和13年11月末から12…

【日刊 太宰治全小説】#54「火の鳥」⑤(『愛と美について』)

【冒頭】 東京では、昭和六年の元旦に、雪が降った。未明より、ちらちら降りはじめ、昼ごろまでつづいた。ひる少しすぎ、戸山が原の雑木の林の陰に、外套の襟を立て、無帽で、煙草をふかしながら、いらいら歩きまわっている男が在った。 【結句】 ばりばりと…

【日刊 太宰治全小説】#53「火の鳥」④(『愛と美について』)

【冒頭】 さちよは、ふたたび汽車に乗った。須々木乙彦のことが新聞に出て、さちよもその情婦として写真まで掲載され、とうとう故郷の伯父が上京し、警察のものが中に入り、さちよは伯父と一緒に帰郷しなければならなくなった。 【結句】 三木朝太郎は、くる…

【日刊 太宰治全小説】#52「火の鳥」③(『愛と美について』)

【冒頭】 男は、何人でも、います。そう答えてやりたかった。おのれは醜いと恥じているのに、人から美しいと言われる女は、そいつは悲惨だ。 【結句】 青年は陰鬱(いんうつ)に堪えかねた。 「火の鳥」について ・新潮文庫『新樹の言葉』所収。 ・昭和13…

【日刊 太宰治全小説】#51「火の鳥」②(『愛と美について』)

【冒頭】 高野さちよは、奥羽の山の中に生れた。祖先の、よい血が流れていた。 【結句】 このひとは、なんにも知らないのだ。私たちが、どんなにみじめな、くるしい生活をしているのか、このお坊ちゃんには、なんにもわかっていないのだ。そう思ったら、微笑…

【日刊 太宰治全小説】#50「火の鳥」①(『愛と美について』)

【冒頭】 昔の話である。須々木乙彦は古着屋へはいって、君のところに黒の無地の羽織はないか、と言った。 【結句】 須々木乙彦は、完全に、こと切れていた。 女は、生きた。 「火の鳥」について ・新潮文庫『新樹の言葉』所収。 ・昭和13年11月末から1…