記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を、自由に旅する。太宰治が、ソウルフレンド。

【日めくり太宰治】7月8日

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7月8日の太宰治

  1936年(昭和11年)7月8日。
 太宰治 27歳。

 七月八日付で、佐藤春夫に手紙を送る。

太宰、佐藤春夫への誘い

 今日は、1936年(昭和11年)7月8日付で、井伏鱒二の師匠筋・佐藤春夫に送ったハガキを紹介します。この佐藤宛のハガキは、6枚綴りのハガキのうち、5枚を使って書かれました。
 太宰がこのハガキを書いたのは、6月25日に処女短篇集晩年が刊行されて間もなくのこと。このハガキを書く2日前には、井伏から小説虚構の春で手紙を許可なく引用して使用したことを叱責する手紙が届き、それに言い訳をする手紙を書いていました。

  千葉県船橋町五日市本宿一九二八より
  東京市小石川区関口町二〇七
   佐藤春夫

先生 オイデカト日ニ、三度ズツ 玄関ガラリサット色メキ、(私ハ サニアラズ 先生ノ 教エ 受ケタル者トシテ 恥カシカラヌ 落チツキ 失ハズ、勉強、カラダ ジュウ 耳ニシテ、身構エ。)アワレヤ、修養足リヌ者、センタクノ手、エプロンニテ 拭キ、拭キ、シカモ一方 エプロン ハズシテ、ムザン、スベテ女ノ不可思議なる猿的 早ワザ、ハシナク、バクロ、シカモ当人、生キタ気モセズ マックラガリノユメノ由。華ヤカナル被告」。十六歳ノオ嫁。「ゴメン

(コノ一文、笑ウベキコトニハ鏡花先生ノ悪影響、アルゾ、アルゾ。)
船橋御来駕ノコト、ソノ日、ソノ日ノ風ノ工合イデ、キメテ下サイ。イカナルムリノ意志ヲモチイズ)
①ノツヅキ。ナセエ、コノワタリニ住ム 九十歳、フビンノ婆、九十歳、ハイ。」ワレラ 間抜ケテ 顔 見合セ、(シマッタ!)落チツキノアル男、「何ガ オカシイッ。モット マジメノ生キカタ ガ アッタ筈。」ナド鴉声忠告、内心、咽喉 焼ケルホドニ風ワルク、ピシャと襖シメキリ、御勉強、クシャクシャ、茶話デナシニ、イロハ歌留多、ワレラノ倫理、有閑 虚栄ノマコト美シサ、富者万燈ノ物語、座席ニ
(御来訪、少シオックウナラバ、気軽ニ御中止。スベテ天ナリ。命ナリ。)

②ノツヅキ。千円 柱ハスベテ津軽塗リノ飛バナイ飛行器、コレハコレダケノモノ、座席ニ 腰カケ、ヤガテ、下リル。マタ、万華鏡ノトキメキ、マキ絵の独楽(コマ)。独楽ノヒモ、金絲、銀絲。(先日、坪田譲治氏ノ コマノ小説。アレカラ、ズイブン サガシマシタケレドモ、見当ラズ、ソノウチ異様ノ不安ニ襲ワレ、ゴメン下サイ、アレハ私ノ 幻想ラシク、モシ、ソノトキハ、叱ラズニタスケテ下サイ。チットモ、悪イ気デ ツイタ嘘デ ゴザイマセヌ。坪田氏ニモ傷ツケタカ不安ニテ、)
船橋御来訪ノコト。ソノ日ソノ日ノ工合イデオキメ下サイ。)

③ノツヅキ。オノノイテ居リマス。私ハ坪田氏ヲ ケイベツシタノデハゴザイマセヌ。日頃、先輩、スグレタ先輩ノヒトリ ト思イ、畏怖ヲサエ 感ジテイマス。以後 キット、バカナコト申シマセヌユエ、黙許 タノミマス。)
 デカダン イロハ ノ小説、題ヲ イマ考エテイマス。イ、ロ、ハ、ニ、順々 短キ ウタ ヲシタタメ、ソレニツカズ ハナレズ ノ物語 シタタメマス。四十枚、前人未踏ノ作品デキル筈、生涯アザムカザル誠実モテススメバ、ワタル世間モ鬼千匹ニアラズ、サリトテ苦悩ノ密
船橋 御来駕。イカナル御仕度モナク。イカナルムリノ御意志用イズ、風ニ委セテ、フラフラ)

④ノツヅキ。雲タエマナクシテ、正確ニハ、鬼千匹仏千体、在ス ナリ ト言イ得ルノデハナイカシラ?「晩年。」ミンナ、アリガトウ ト オ礼 ヨコシテ クレマシタ。フルサトノ長兄ト 日 一日 ナカヨクナリ、私、短気オコシテ 怒ラヌカギリ、キット オ金持チニナレルノデス。金持チ ケンカ セズ ナド ツブヤイテ、マルゼン ヨリ、ベラボウ 高イ カメラ雑誌 買イ、スマシテ居リマス。
船橋 御来訪ノコト、御都合アシキ場合、ドンドンオ断リ御自由ニテ、コチラハ平気)

 6枚綴りのハガキのうち、5枚も使って書かれたこの手紙。内容はさて置き、ハガキの末尾に必ず添えられる、「船橋へ来て下さい」の一言が目に留まります。この5枚のハガキが同日付というのが、なかなか信じられません。

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佐藤春夫(1892~1964)

 【了】

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【参考文献】
・『太宰治全集 12 書簡』(筑摩書房、1999年)
日本近代文学館 編『図説 太宰治』(ちくま学芸文庫、2000年)
・山内祥史『太宰治の年譜』(大修館書店、2012年)
・田村茂 写真『素顔の文士たち』(河出書房新社、2019年)
 ※モノクロ画像は、上記参考文献より引用しました。
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