記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

グッド・バイ

【日めくり太宰治】5月14日

5月14日の太宰治。 1948年(昭和23年)5月14日。 太宰治 38歳。 末常卓郎(すえつねたくろう)が来訪し、「朝日新聞」への連載小説の執筆条件などについて相談した。 太宰の「朝日新聞」連載小説 1948年(昭和23年)5月14日、朝日新聞…

【日刊 太宰治全小説】#276「グッド・バイ」コールド・ウォー(二)

【冒頭】 こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応(きょうおう)せず、思い切り酷使(こくし)しなければ、損だ。温情は大の禁物(きんもつ)、わが身の破滅。 【結句】 彼は、めっきりキヌ…

【日刊 太宰治全小説】#275「グッド・バイ」コールド・ウォー(一)

【冒頭】 田島は、しかし、永井キヌ子に投じた資本が、惜しくてならぬ。こんな、割の合わぬ商売をした事が無い。 【結句】 「五千円で、たのみます。」「ばかねえ、あなたは。」くっくっ笑う声が聞える。承知の気配だ。 「グッド・バイ コールド・ウォー(一…

【日刊 太宰治全小説】#274「グッド・バイ」怪力(四)

【冒頭】 「ピアノが聞えるね。」彼は、いよいよキザになる。眼を細めて、遠くのラジオに耳を傾ける。 【結句】 色男としての歴史に於いて、かつて無かった大屈辱にはらわたの煮えくりかえるのを覚えつつ、彼はキヌ子から恵まれた赤いテープで、眼鏡をつくろ…

【日刊 太宰治全小説】#273「グッド・バイ」怪力(三)

【冒頭】 田島は、ウイスキイを大きいコップで、ぐい、ぐい、と二挙動で飲みほす。 【結句】 「ケンカするほど深い仲、ってね。」とはまた、下手な口説きよう。しかし、男は、こんな場合、たとい大人物、大学者と言われているほどのひとでも、かくの如(ごと)…

【日刊 太宰治全小説】#272「グッド・バイ」怪力(二)

【冒頭】 「あそびに来たのだけどね、」と田島は、むしろ恐怖におそわれ、キヌ子同様の鴉声(からすごえ)になり、「でも、出直して来てもいいんだよ。」 【結句】 )「なんだ、身の上話はつまらん。コップを貸してくれ。これから、ウイスキイとカラスミだ。う…

【日刊 太宰治全小説】#271「グッド・バイ」怪力(一)

【冒頭】 しかし、田島だって、もともとただものでは無いのである。闇商売の手伝いをして、一挙に数十万円は楽にもうけるという、いわば目から鼻に抜けるほどの才物であった。 【結句】 部屋の壁には、無尽会社の宣伝ポスター、たった一枚、他にはどこを見て…

【日刊 太宰治全小説】#270「グッド・バイ」行進(五)

【冒頭】 セットの終ったころ、田島は、そっとまた美容室にはいって来て、一すんくらいの厚さの紙幣(しへい)のたばを、美容師の白い上衣(うわぎ)のポケットに滑(すべ)りこませ、ほとんど祈るような気持で、「グッド・バイ。」とささやき、その声が自分でも意…

【日刊 太宰治全小説】#269「グッド・バイ」行進(四)

【冒頭】 キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので、午後二時以後なら、たいていひまだという。 【結句】 青木さんは、キヌ子に白い肩掛けを当て、キヌ子の髪をときはじめ、その眼には、涙が、いまにもあふれ出るほどい…

【日刊 太宰治全小説】#268「グッド・バイ」行進(三)

【冒頭】 田島は敵の意外の鋭鋒(えいほう)にたじろぎながらも、「そうさ、全くなってやしないから、君にこうして頼むんだ。往生(おうじょう)しているんだよ。」 【結句】 トンカツ。鶏のコロッケ。マグロの刺身。イカの刺身。支那(シナ)そば。ウナギ。よせな…

【日刊 太宰治全小説】#267「グッド・バイ」行進(二)

【冒頭】 馬子(まご)にも衣裳(いしょう)というが、ことに女は、その装(よそお)い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変(かわ)る。元来(がんらい)、化け物なのかも知れない。 【結句】 「引受けてくれるね?」「バカだわ、あなたは。まるでなってやしな…

【日刊 太宰治全小説】#266「グッド・バイ」行進(一)

【冒頭】 田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。 【結句】 声の悪いのは、傷だが、それは沈黙を固く守らせておればいい。使える。 「グッド・バイ 行進(こうしん)(一)」について ・新潮文庫『グッド・バイ』所収。・昭和23年5月…

【日刊 太宰治全小説】#265「グッド・バイ」変心(二)

【冒頭】 田島は、泣きべその顔になる。思えば、思うほど、自分ひとりの力では、到底、処理の仕様が無い。金ですむ事なら、わけないけれども、女たちが、それだけで引下るようにも思えない。 【結句】 おぼれる者のワラ。田島は少し気が動いた。 「グッド・…

【日刊 太宰治全小説】#264「グッド・バイ」変心(一)

【冒頭】 文壇(ぶんだん)の、或(あ)る老大家が亡(な)くなって、その告別式の終り頃(ごろ)から、雨が降りはじめた。早春の雨である。 【結句】 大男の文士は口をゆがめて苦笑し、「それは結構だが、いったい、お前には、女が幾人あるんだい?」 「グッド・バ…

【日刊 太宰治全小説】#263「グッド・バイ」作者の言葉

【冒頭】 唐詩選(とうしせん)の五言絶句の中に、人生別離の一句があり、私の或(あ)る先輩はこれを「サヨナラ」ダケガ人生ダ、と訳した。 【結句】 題して「グッド・バイ」現代の紳士淑女(しんししゅくじょ)の、別離百態と言っては大袈裟(おおげさ)だけれども…