記憶の宮殿

僕は、記憶の宮殿を自由に旅する。太宰治がソウルフレンド。

右大臣実朝

【週刊 太宰治のエッセイ】古典龍頭蛇尾

◆「古典龍頭蛇尾」 毎週月曜朝6時更新。太宰治の全エッセイ全163作品を執筆順に紹介します。

【日めくり太宰治】8月16日

8月16日の太宰治。 1943年(昭和18年)8月16日。 太宰治 34歳。 芳賀檀(はがまゆみ)が、「こんど太宰治が『ユダヤ人実朝』を書いた」と放言。それが太宰の耳に入って、中谷孝雄、檀一雄、芳賀檀(はがまゆみ)などとの間に一悶着があった。 『ユ…

【日めくり太宰治】1月31日

1月31日の太宰治。 1943年(昭和18年)1月31日。 太宰治 33歳。 この頃、旅また旅という状態で、「必ず一度は書いて死にたい」と念願していた「右大臣実朝」の原稿に苦心。 太宰の「実朝時代」 太宰が「必ず一度は書いて死にたい」と念願した…

【日刊 太宰治全小説】#158「右大臣実朝」十

【冒頭】 公暁(くぎょう)禅師さまは、その翌年の建保五年六月に京都よりお帰りになり、天海大さまのお計いに依って鶴岳宮の別当に任ぜられました前の別当職、定暁僧都さまはそのとしの五月に御腫物(はれもの)をわずらい、既におなくなりになっていたので…

【日刊 太宰治全小説】#157「右大臣実朝」九

【冒頭】 御耽溺(ごたんでき)とは申しても、下衆(げす)の者たちのように正体を失うほどに酔いつぶれ、奇妙な事ばかり大声でわめきちらし、婦女子をとらえてどうこうというような、あんなものかとお思いになると、とんでもない間違いでございまして、将軍…

【日刊 太宰治全小説】#156「右大臣実朝」八

【冒頭】 五月二日、酉剋に至って和田四郎左衛門尉義直さまが討死をなされ、男の義直さまを何ものにも代えがたくお可愛がりになっていた老父義盛さまは、その悲報をお聞きになって、落馬せんばかりに驚き、人まえもはばからず身を震わせて号泣し、あれが死ん…

【日刊 太宰治全小説】#155「右大臣実朝」七

【冒頭】 いきおいの赴くところ、まことに、やむを得ないものと見えます。五月二日の夕刻、和田左衛門尉義盛さまは一族郎党百五十騎を率いて反旗をひるがえし、故右大将家幕府御創業このかた三十年、この鎌倉の地にはじめての大兵乱が勃発いたしました。 【…

【日刊 太宰治全小説】#154「右大臣実朝」六

【冒頭】 いったいにあの相州さまは、奇妙に人に憎まれるお方でございました。 【結句】 胤長さまのお屋敷は、さらに左衛門尉義盛さまからお取り上げに相成り、相州さまがあずかる事になって、和田さま御一族がそのお屋敷に移り住んで居られたのを、相州さま…

【日刊 太宰治全小説】#153「右大臣実朝」五

【冒頭】 さて、つづく建暦三年、このとしは十二月六日に建保と改元になりましたが、なにしろ、事の多いとしでございました。正月一日から地震がございまして、はなはだ縁起の悪い気持が致しましたが、果して陰謀やら兵乱やら、御所の炎上、また大地震、落雷…

【日刊 太宰治全小説】#152「右大臣実朝」四

【冒頭】 あくる建暦二年の二月に、私は、はじめて二所詣のお供をさせていただきました。承元元年正月以来五年振りのお詣りでございましたが、承元元年には将軍家は十六歳、その時には私はまだ御所の御奉公にあがっていませんでしたので、このたびはそれこそ…

【日刊 太宰治全小説】#151「右大臣実朝」三

【冒頭】 将軍家が二十歳におなりになった承元五年は、三月九日から建暦元年と改元になりましたが、このとしは、しばしば大地震があったり、ちかくに火事が起ったり、夏には永いこと雨が続いて洪水になったり、また将軍家の御健康もすぐれ給わずとかくおひき…

【日刊 太宰治全小説】#150「右大臣実朝」二

【冒頭】 下々の口さがない人たちは、やれ尼御台(あまみだい)が専横の、執権相模守義時が陰険のと騒ぎ立てていた事もあったようでございますが、私たちの見たところでは、尼御台さまも相州さまも、それこそ竹を割ったようなさっぱりした御気性のお方でした…

【日刊 太宰治全小説】#149「右大臣実朝」一

【冒頭】 おたずねの鎌倉右大臣さまに就いて、それでは私の見たところ聞いたところ、つとめて虚飾を避けてありのまま、あなたにお知らせ申し上げます。 【結句】 天真爛漫とでも申しましょうか。心に少しでも屈託があったら、こんな和歌などはとても作れるも…

【日刊 太宰治全小説】#146「赤心」

【冒頭】建保元年癸酉。三月六日、天霽。 【結句】山ハサケ海ハアセナム世ナリトモ君ニフタ心ワガアラメヤモ 源 実朝 「赤心(せきしん)」について ・新潮文庫『地図』所収。・昭和18年3月下旬から4月上旬頃までに脱稿。・昭和18年2月1日、『新潮』五…

【日刊 太宰治全小説】#145「鉄面皮」

【冒頭】安心し給え、君の事を書くのではない。 【結句】無理カモ知レマセヌガとまた、うつむいて、低く呟くようにおっしゃって、ソレダケガ生キル道デス 「鉄面皮(てつめんぴ)」について ・新潮文庫『ろまん燈籠』所収。・昭和18年3月上旬頃に脱稿。・昭…